作品
最後の一合
全国で米が買えなくなった地方の町・青川市。残されたわずか一合の米を誰がどう使うかをめぐり、食の倫理を研究してきた篠宮誠一と家族が、「食べること」と「譲ること」の意味を問い直す――食と家族をめぐる六章の物語。
- 第1章 残された一合 青川市では、もう三週間以上、米が店頭から消えていた。かつて「東の米どころ」と呼ばれたこの地域で、白いツヤのある米粒を見ない日々が続くことは、誰も想像していなかったのだろう。
- 第2章 食の哲学者 「食べることは、単なる栄養摂取ではない。それは文化的行為であり、倫理的選択であり、社会的儀式なのだ」
- 第3章 世界と地域のはざまで 哲也は兄の健太郎に向かって言った。農協の事務所でまとめた数字を見せながら、彼は続けた。「これを見てくれ。青川市だけでも、米の備蓄はほぼゼロだ。隣接地域からの供給も途絶えている。
- 第4章 孫娘の視点 美咲は学校のオンライン授業で「持続可能な食システム」について学んでいた。画面の中の先生が「現在の危機は、実は機会でもある」と言ったとき、彼女は祖父の書斎にある本の一節を思い出した。
- 第5章 一粒の重み 千代は家族の議論を黙って聞いていた。彼女は時々頷き、時々首を傾げていたが、基本的には黙っていた。そして誰もが自分の主張を述べ終えたとき、彼女はゆっくりと立ち上がった。
- 第6章 分かち合いの形 最後の一合は三つに分けられた。三分の一は、その日の夕食として炊かれ、家族全員と近所の子どものいる家族で分け合って食べた。米一粒一粒を味わいながら、誰もが無言だった。